介護職に就いていると、避け避けて通れないのが「利用者の死」。
今回は、ある98歳の男性が在宅で看取られたエピソードを通して、
私自身が感じたこと、学んだことをお伝えします。
突然、自分が死ぬと決まっても後悔がない。
死ぬときに少しでもそう言えるために
・今からでもできることは何か?
・日ごろからできることは何か?
そう考えさせられたエピソードでした。

武骨で無口、一人が好きな方【デイサービス利用までの経緯】
男性利用者との出会いは、施設見学からでした。
ケアマネからの紹介を経て、見学に至ります。
事前には
・認知症があり自宅の部屋で毎日、静かに暮らしている
・家族は、歩けなくなり入院しないか心配
・本人は「最期まで家で生活したい」と強く望んでいる
大まかにこのような情報がありました。
そして、とても武骨で無口な方であると。
見学の当日は、家族(長女)に連れられての来所でした。
本当に無口な方で、面談時の受け答えの8割が家族の返答です。
・自宅で生活するにも、歩行機能が低下してはできない
・少しでも誰かと関わってほしい
言葉少なな彼に代わって家族が、このような希望を話します。
そこで、とても大事な本人の希望も聞きました。
しかし本人の口から語られたのは、はっきりとした思い
・特に困っていることはない
・一人で家で、静かに暮らしたい
・自分の部屋で本を読むのが好きだ
一貫していたのは、自宅で静かに暮らしたい。
この一点でした。
見学の最後にに、「利用してみますか?」と問いかけると
「そうするか」と一言、返事があり利用が決定します。
周囲に促されて、利用する形となりました。

自分の人生に向き合う言葉【契約時の笑顔と長女の涙】
利用開始前には、自宅で契約を行います。
彼の好きな部屋にも入ることができました。
自宅で契約を結ぶとき、家族(妻、長女)の同席でした。
・現在は、自分の部屋で本を読んですごしている
・残りの人生は、自分の部屋でゆっくりと過ごしたい
揺るぎない彼の意志が、そこにはありました。
本人へ今の生活を続けたいかを確認します。
すると、「そうだねぇ、俺はこの部屋が好きだし、ここでずっとゆっくりしたいなぁ。」
笑いながら話していました。
その後ろで、長女が静かに泣いていたのに私は気付きます。
理由ははっきりわからなかったです。
もしかしたら、何年も自分の感情や思いを家族に話していなかった。
そんな時に、彼の“本音”や“笑顔”を久しぶりに見た瞬間だったのかもしれません。
あるいは、ご自身の強い想いとは裏腹に、彼が外に出たがらない。
そんな状況に、何とも言えない気持ちになったのかもしれません。
どちらにしても、男性に対する家族の想いや不安が、垣間見えた瞬間でした。

利用開始と施設への違和感【自宅で過ごしたい想い】
週1回、利用を開始して様子を見ていく。
まずは馴染んで頂こうと通うことから始めます。
しかし、なかなか施設には馴染めませんでした。
・利用者同士どころか職員とも話さない
・イスに座って5分もすると、キョロキョロしてしまう
利用を開始して1か月もしないうちに、「帰りたい」と発言するようになります。
さらには、自分から外に出て、歩いて帰ろうとするようになりました。
担当のケアマネジャーに相談して、これ以上の利用は本人にとって苦痛であると伝えます。
結局、3か月ほどで利用は終了となりました。
その後、寝たきりにならないように、訪問のリハビリへ切り替えます。
担当ケアマネジャーからは自宅で静かに暮らしていると、報告を受けました。
自宅で迎えた最後【看取りの直前に遺された言葉】
それから半年後、奥さんが利用開始となります。
とても上品な方で、武骨は夫を3歩後ろから支えてきた。
そんな夫婦関係が想像できる、笑顔が素敵な方です。
時々、自宅で元気に過ごしていると、様子を聞いて安心していました。
その後、彼が入院したと報告を受けます。
・延命治療をしない
・とても家に帰りたがっている
彼の強い希望もあり、自宅で療養することになります。
家では自分の部屋で、静かに生活していると聞き、変わらない様子に安心しました。
その後、自宅での看取りの報告を受けます。
・最期まで大好きだった自分の部屋で過ごせた
・亡くなる当日まで、元気に歩いていた
・家族が看取る中での静かな最期だった
本当に、家族も本人も自分の最期に向き合えた形での看取りだったようです。
奥さんから
「短い間だったけど、ありがとう。」
と感謝の言葉も頂きました。
そして、こんな話を聞きます。
「うちのおじいちゃんたら、亡くなる2日前前かな?
何を思ったのかしらね?
娘に向かって私のことを指さしてこう言ったのよ。
『この人は、俺にとって大切な人だからよろしく頼むよ』
もうすぐ、自分が死ぬことを予感していたのかな?」
無口で滅多に感謝の言葉は口にしなかった彼が、最期に感謝の気持ちを口にして旅立たれた。
お互いに納得した最期だったのかもしれません。

男性から学んだ「今からでもできること」
彼から学んだことは、身近な人への感謝の気持ちを伝える。
いつでもできるけど、できていないことでした。
人はいつ死ぬかもわかりません。
でも、心のどこかで死ぬことを自覚していないです。
なぜなら怖いからです。
いつ死んでもいいような人生を送るのは、とても難しいです。
急に死んでも後悔しないように、何か一つできる行動があるなら何か?
・どんな小さなことでも「ありがとう」を伝える
・うれしい気持ちを素直に表現する
死んでしまっては、自分の思いは伝わりません。
一番、誰もが行動できる事ですが、できていない事です。
98歳の男性の最期を通して、どんな形でもいい、家族や身近な人に感謝の気持ちを言葉として伝えていこう。
そう思えるできごとでした。
利用者が死から得られる介護職の学び
利用者が亡くなることを通して学べることはたくさんあります。
どうしても忙しくなると、利用者が亡くなることが当たり前になってしまいます。
でも、私は1人1人にしっかり向き合っていきたいです。
- 「いい人生だった」と思ってもらえるように
- 家族がその後の人生を前向きに歩めるように
- そして自分自身も、その経験から深く学べるように
介護の仕事で得られる物は、本当に貴重な経験です。
利用者が亡くなることへの価値観として、以下の記事もあります。
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