
「認知症の方が、お風呂に入ってくれない」
「利用者が歩き回って。困っている」
認知症の利用者のケアで、どう対応すればいいのか迷ってしまう。
介護職員であれば、誰しも経験することですよね?
特にBPSD(行動・心理症状)が顕著な方のケアはとても難しいです。
今回はこまった場面で役立つ「認知症ケアの対応の基本」について整理します。
認知症ケアにおいて、BPSD(行動・心理症状)は避けて通れないテーマです。
でも、困っているのは本当に“利用者”でしょうか?
気づけば、困っているのは「あなた」──つまり“自分”になっていませんか。
暴言・暴力、徘徊、不安、拒否、妄想…。
こうした行動は“突然起きるもの”ではなく、必ず理由や背景があります。
経験のある介護職員ほど、日々の業務にとらわれがちです。
そして、対応が自己流になってしまったり、基本を忘れてしまいがちです。
そこで今回は、BPSDの対応を「前提」から見直すことをテーマとします。
基本対応はケアの質を大きく左右するといっても過言ではありません。
この記事では、BPSDに向き合う際の土台となる考え方と、
現場で使える対応の基本ステップをわかりやすく整理していきます。
認知症におけるBPSDの対応で重要なポイント

認知症ケアの現場では、BPSDが顕在化した“後”の対応に注目が集まりがちです。
しかし実際には、暴言・暴力、不穏、拒否、妄想といった症状は、ある日突然生じるわけではありません。
そのため、次のような視点が大切です。
・BPSDは“突然”ではなく“積み重ね”で起きる
・日々の対応の質が、BPSDの悪化を防ぐ
・経験者ほど“自己流”になりやすい
経験のある介護職員は、利用者の変化に気づきやすくなります。
一方で「このくらいなら大丈夫だろう」 「いつものことだ」 と判断してしまい、
日々の微細な変化を見過ごしてしまうことがあります。
しかし、BPSDは初期からの介入が最も効果的です。
“日々の対応の質”が、その後の症状の進行や職員の負担を大きく左右します。
適切な対応が行われれば、利用者の不安は軽減され、症状の進行を防ぐことができます。
逆に、基本の対応が不適切であれば、利用者の混乱や恐怖心を増幅します。
そしてBPSDが顕在化・重症化するリスクが高まってしまうのです。
あらためて、 「なぜ日々の対応が重要なのか」 を整理してみましょう。
BPSDは“突然”ではなく“積み重ね”で起きる

暴言や暴力、拒否などの行動は、利用者の中の不安や混乱として表れます。
それも不安や混乱が積み重なった結果として生じます。
初期の小さなサインに気付くことで、その後の展開は大きく変わります。
認知症の人は、記憶障害や判断力の低下があります。
・自身の状態を適切に理解することが難しい
・環境の変化に柔軟に適応したりすることが難しい
そのため、痛み・不安・疲労・環境刺激などのストレスが蓄積していきます。
そして、蓄積しても自ら言葉して訴えられず、代わりに行動や情動の変化として表れます。
この“ストレスの蓄積”が限界に達した時に、BPSDが顕在化するのです。
例えば、日常で次のようなストレスがあります。
・軽度の尿意や便秘による不快感、
・騒音や人混みによる刺激、
・職員の声かけのタイミングが合わない
このような積み重ねで、利用者は徐々に落ち着きを失います。
この段階で適切な観察や声かけが行われず、ストレスがさらに蓄積すると、
「急に怒り出した」
「突然暴れた」
と見える行動につながります。
しかし実際には“突然”ではなく、前兆が積み重なった結果です。
つまり、BPSDは突発的な現象ではなく、ストレスの累積によって生じる“予測可能な反応”です。
だからこそ、日々の微細な変化を捉え、早期に介入すること。
それが症状の悪化を防ぐ、最も効果的なアプローチとなります。
日々の対応の質が、BPSDの悪化を防ぐ

日々の対応の質は、BPSDが悪化予防にとても大切です。
早い段階で利用者の不安を和らげることが、その後の行動の落ち着きに大きく影響します。
認知症の方は、体調の変化や環境の刺激に対して、自分で気持ちを整えにくいのです。
そのため、ちょっとした不安などが積み重なると、気持ちが高ぶりやすくなります。
結果として、拒否や不穏といった行動につながりやすくなるのです。
逆に、日常で「大丈夫ですよ」「一緒に確認しましょう」といった安心できる関わりがあると、
利用者の気持ちが落ち着き、行動のエスカレートを防ぐことができます。
例えば、いつもよりそわそわしている利用者に対して、
・少し距離をとって様子を見る
・ゆっくり声をかけて状況を確認する
・部屋の寒さや騒音など環境を整える
といった対応を行うだけで、不安が和らぎ、落ち着きを取り戻すことがあります。
一方、この段階で「大丈夫だろう」と見過ごしたり、急かすような声かけをしてしまう。
そのような場合に「急に怒り出した」「突然拒否が強くなった」
と感じる行動につながり、結果的に職員の負担も増えてしまいます。
つまり、日々の対応はBPSDの悪化を防ぐための“最初の予防策”です。
利用者の小さな変化に気づき、早めに関わること。
それが利用者も職員も安心して過ごせる環境をつくることができます。
経験者ほどケアが“自己流”になりやすい

経験を積んだ職員ほど、知らず知らずのうちに“自己流”の対応になってしまいがちです。
その結果、BPSDのサインを見逃してしまうことがあります。
数年の経験を積むと、利用者の特徴や施設の流れが分かってきて、対応がスムーズになります。
介護職員として、利用者の特徴を理解することは大きな強みです。
その一方で「この人はいつもこうだから」「前もこうだったし今回も同じだろう」
このような“慣れ”が判断に影響することがあります。
認知症ケアは、同じ利用者でも日によって状態が微妙に変わります。
そして、経験だけに頼ると、微妙な変化に気づきにくくなるのです。
例えば、普段は穏やかな利用者が少し落ち着かない様子が見えたとしても
「今日はちょっと疲れているだけかな」
「このくらいなら大丈夫だろう」
このように判断してしまうことがあります。
しかし、その“少しの変化”が、初期サインであることも多いのです。
ここで丁寧に関わらないと、後に不穏や拒否、暴言といったBPSDにつながります。
経験があるからこそ、気づけるはずの変化を“慣れ”が邪魔してしまうーー。
そんな場面は、現場では珍しくありません。
つまり、経験を積んだ職員ほど、意識的に“基本に立ち返る姿勢”が必要です。
自己流に偏らず、毎回の利用者の変化を丁寧に観察すること。
それがBPSDの悪化を防ぎ、より質の高いケアにつながります。
認知症の人の世界の見え方を理解する

実際の対応の前に、認知症利用者が世界がどう見えているのか。
理解しておくことはとても大切です。
どうしても現場では
・椅子に座っていてくれない
・お風呂に入ってくれない
など、職員目線になりがちです。
しかし相手の立場にたって考える。
それは、人との関りの中で基本的で大切な考え方です。
・認知のズレ
・行動の背景にある「何か」
・否定されてしまうことでの不安
このように認知症がどう世界を見ているのか。
しっかりと理解しておくことが、接する際の前提として大切です。
「相手の立場になって考える」
認知症の方でも、対人関係の基本は変わらないです。
では具体的に確認していきましょう。
記憶の障害よりも“認知のズレ”が行動に影響する
認知症の方の行動の原因は、記憶の障害だけではありません。
記憶の障害よりも、“物事の捉え方や理解のズレ”大きく影響しています。
この“認知のズレ”を理解しておくことが、BPSDの予防や初期対応にとても大切です。
認知症では、単に「忘れる」だけでなく、
・時間の感覚がずれる
・人や場所の認識が曖昧になる
・状況判断が難しくなる
このような、目に入った情報を正しく処理できないといった変化が起こります。
この“認知のズレ”で周囲の状況を正しく理解できず、不安や混乱が生じやすくなります。
その結果、行動が変化したり、BPSDにつながったりするのです。
例えば、夕方に「家に帰らなきゃ」と落ち着かなくなる利用者がいます。
これは「家のことを忘れている」のではなく、
・今が何時なのか
・ここがどこなのか
・自分がどんな状況にいるのか
といった認知の整理がうまくできず、不安が高まっている状態です。
また、物盗られ妄想も「記憶が抜けている」だけではありません。
「物が見つからない=誰かが取った」
と短絡的に結びついてしまう“認知のズレ”が背景にあります。
つまり、認知症の方の行動を理解するには、「忘れているから仕方ない」ではないのです。
“世界の見え方がズレている”という視点が欠かせません。
“認知のズレ”の前提を押さえ、利用者の行動の意味を見えやすくしましょう。
そして、より適切な対応につながります。

行動の背景には、不安・混乱・身体不調がある
認知症の方の行動の背景には、“不安・混乱・身体の不調”が隠れています。
行動だけで判断せずに、まずはその裏にある「困りごと」を理解しましょう。
認知症が進むと、自分の体調や気持ちを言葉で表現しにくくなります。
そのため、日常で身体の不調や、周囲の状況への混乱などの不安が生じたとします。
そんな時、言葉ではなく“行動”として表れやすくなります。
つまり、行動は「困っている」サインであり、本人なりのSOSなのです。
例えば、急に歩き回るようになった利用者が現場ではよく見られます。
一見すると「徘徊」と捉えがちですが、実際には
・トイレに行きたい
・体が痛くて落ち着かない
・何かを探している
・ここがどこかわからず不安
といった理由が隠れていることが多いです。
それは、急に怒りっぽくなる場合にもいえます。
「痛い」「寒い」「眠れない」といった身体の不調が背景にあったりします。
行動だけを見ると“問題”に見えても、背景を探るとほとんどに“理由”があります。
つまり、認知症の方の行動を理解することーー。
それは表面の行動だけでなく、その裏の“不安・混乱・身体不調”に目を向けることです。
この視点を持つと、より適切な対応ができ、BPSDの悪化予防につながります。
否定されると不安が増す

「違いますよ」
「そんなことありません」
このように否定されると、利用者はさらに混乱します。
まずは“気持ち”に寄り添う姿勢が必要です。
認知症の方は、事実を否定されると不安や混乱が強まり、症状が悪化しやすくなります。
そのため、まずは“否定しない関わり”がとても大切です。
認知症が進むと、記憶や判断力が低下するだけではありません。
「自分の感じていることが正しいのかどうか」を確かめる力も弱くなります。
その状態で「違いますよ」「そんなことありません」と否定されると、
・自分の感覚が信じられなくなる
・相手に理解されていないと感じる
・ますます不安が高まる
といった反応が起こりやすくなります。
結果として、怒り・拒否・妄想の強まりなど、BPSDにつながってしまいます。
「財布がない、誰かが盗った」と訴える利用者の話はよく聞きますよね。
ついご家族は「盗られてないよ」「ちゃんとあるでしょ」と否定してしまいます。
(ご家族の対応がそうなってしまうことは、仕方のないことです)
否定されると、利用者は「自分の言っていることを信じてもらえない」と感じます。
そして、不安や怒りが強まることになるのです。
「大切な物が見つからないと心配になりますよね。一緒に探してみましょう」
このように、気持ちに寄り添う行動が安心感、落ち着きにつながります。
行動の背景にある“気持ち”を受け止めることで、BPSDの悪化が予防できるのです。
つまり、認知症の方にとって“否定されないこと”は安心につながる大切な要素です。
事実を正すよりも、まずは気持ちに寄り添って不安を和らげ、行動の安定につなげましょう。
認知症利用者の対応の基本ステップ

ここからは認知症利用者への対応の、基本ステップを確認しましょう。
認知症利用者への対応の基本は、不安や不調にさせないこと、そして気付くことです。
認知症の方は、周囲へ伝えられない不安や不調があります。
それが行動として表れてしまうのです。
対応の基本を誤ってしまい、BPSDが大きくならないようにしましょう。
具体的には
①観察:表情・姿勢・環境の変化を読む
②距離の取り方:安全と安心のバランス
③声かけの原則:短く・ゆっくり・肯定的に
④共感の提示:まず“気持ち”を受け容れる
⑤原因の仮説立て:身体・心理・環境の3方向から考える
のステップがあります。
① 観察:表情・姿勢・環境の変化を読む
認知症の方の小さな変化に気づくためには、まず“観察”しましょう。
観察とは表情や姿勢、周囲の環境の変化を丁寧に見ることです。
観察することで、BPSDのサインを早期に捉えることができます。
認知症の方は、自分の不調や不安を言葉でうまく伝えられないことが多くあります。
代わりとして、“行動”や“表情”にサインが現れるのです。
そのため、行動が大きく変わる前の段階で、微細な変化に気づけるかどうか、
それが対応の質を左右します。
例えば、普段は落ち着いている利用者が、
・そわそわと落ち着かない
・何度も周囲を見回す
・立ち上がりかけては座るを繰り返す
といった様子を見せることがあります。
これは「徘徊の前兆」や「不安の高まり」であるといえます。
この段階で声をかけたり、環境を整えたりすることで、行動のエスカレートを予防できます。
逆にこのサインを見逃すと、後に不穏や拒否、暴言などにつながってしまいます。
つまり、観察は適切な対応への始まりで、BPSDの悪化予防として、最も基本的で重要なスキルです。
表情・姿勢・環境の変化を丁寧に読み取ること、
それによって利用者の“困りごと”に早く気づき、適切な支援につなげることができます。
② 距離の取り方:安全と安心のバランス

認知症の方と関わるときは、“ちょうど良い距離”を保ちましょう。
この距離感が、利用者の安心感と職員の安全の両方を守ることにつながります。
・急に近づかれる
・背後から声をかけられる
このような状況は、利用者が驚きや恐怖を感じやすくなります。
その結果、不安が高まり、拒否や防衛的な行動につながってしまうのです。
一方で、距離の取りすぎは「放っておかれている」と感じ、不安を強めてしまいます。
つまり、距離の取り方は、利用者の情動を安定させるための重要な要素となります。
そして、同時に職員が巻き込まれないための安全確保にも直結します。
例えば、利用者が落ち着かず椅子から立ち上がろうとしている場面では、
・正面から急に近づかない
・斜め前の位置に立ち、視界に入りやすくする
・少し離れた位置から、ゆっくり声をかける
といった工夫が有効です。
この距離感により、利用者は「自分を脅かす存在ではない」と安心しやすくなります。
逆に、近づきすぎると「押さえつけられる」と誤解されます。
そして、拒否や暴力につながってしまうのです。
つまり、距離の取り方は“安全”と“安心”の両方を守るための基本スキルです。
利用者の表情や動きを見ながら、適切な距離を調整すること。
それは認知症対応の質が大きく向上し、BPSDの悪化を防ぐことにつながります。
③ 声かけの原則:短く・ゆっくり・肯定的に

認知症の方への声かけは、“短く・ゆっくり・肯定的に”が基本です。
この声かけの工夫だけで、利用者の不安が和らぎ、行動が落ち着きやすくなります。
認知症の方は、情報を処理するスピードがゆっくりとなっています。
そこに、長い説明や早口の声かけがあると、理解しづらくなります。
また、否定的な言葉や急かすような言い方は、混乱や不安を強めてしまいます。
その結果、拒否や不穏につながってしまうのです。
そのため、
・一文を短くする
・ゆっくり話す
・肯定的な言葉を選ぶ
といった声かけは、利用者が状況を理解しやすくなり、安心して行動できる環境となります。
例えば、着替えを促す場面の声掛けとして、以下のセリフを言ったとします。
「早く着替えてください、みんな待ってますよ」
すると、利用者はプレッシャーを感じ、不安や拒否が強まることになります。
一方で、短く区切った声掛けをしたとします。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。まずは上着を脱ぎましょうね」
すると、利用者は理解しやすく、安心して行動に移りやすくなります。
また、「違いますよ」ではなく「こうすると安心ですよ」と肯定的に伝えましょう。
利用者の気持ちが安定しやすくなります。
つまり、声かけは“伝えるため”だけでなく、“安心してもらうため”の大切なケアです。
短く・ゆっくり・肯定的に話すこと、
そうすると利用者の理解が深まり、BPSDの予防や対応の質が大きく向上します。
④ 受容の提示:まず“気持ち”を受け容れる

認知症の方と関わるときは、まず“気持ちに寄り添う”という受容が大切です。
受容できる一言があると、利用者の不安が和らぎ、行動が落ち着きやすくなります。
認知症の方は、状況を正確に理解することが難しくなり、
「自分の感じていることが正しいのか」
「相手は自分を理解してくれているのか」
といった不安を抱えやすくなります。
そのため、事実を否定されたり、急に説明されたりすると、
「わかってもらえない」
「自分は間違っているのかもしれない」
と感じ、混乱や怒りが強まることがあります。
逆に、気持ちを受け容れてもらえると、安心感が生まれます。
安心感があれば、症状の進行を防ぐことができます。
例えば、利用者が「家に帰らなきゃ」と不安そうにしている場面で、
「ここがあなたの家ですよ」
「帰る必要はありません」
と事実を伝えても、利用者の不安は解消されません。
一方で、「心配なんですね。家のことが気になりますよね」 と気持ちに寄り添うと、
利用者は“理解された”と感じ、落ち着きを取り戻しやすくなります。
その後で、「少し休んでから考えましょうね」 と提案してみましょう。
スムーズに受け入れてくれることが多いです。
つまり、受容は“問題を解決するための前置き”ではなく、“安心をつくるためのケア”です。
気持ちを受け容れることは、利用者の心が安定します。
「不安なんですね」 「困りましたね」 と気持ちに寄り添うと、利用者は安心できるのです。
⑤ 原因の仮説立て:身体・心理・環境の3方向から考える
認知症の方の行動が変わったときは、まず“身体・心理・環境”の視点から原因を考えましょう。
この仮説立てができると、より適切なケアにつながります。
認知症の方は、自分の不調や気持ちを言葉で伝えにくく、行動の変化として表れます。
そのため、行動だけを見て判断すると、対応がズレてしまうのです。
そこで
・身体の不調(痛み・便秘・脱水・感染など)
・心理的な不安(孤独・混乱・喪失感など)
・環境の影響(騒音・寒暖差・人の出入りなど)
この3つの視点から原因を考えることで、行動の背景が見えやすくなり、適切なケアにつながります。
例えば、利用者が急に落ち着かなくなった場合、
・身体の視点:「痛みはないか」「便秘していないか」「熱はないか」
・心理の視点:「不安な出来事があったか」「見当識が乱れていないか」
・環境の視点:「部屋が寒くないか」「周囲が騒がしくないか」
このように仮説を立てながら原因を探ってみましょう。
そうすると、行動の意味が理解しやすくなり、適切な対応ができるようになります。
つまり、原因の仮説立ては“行動の裏側を読み解くための基本姿勢”です。
身体・心理・環境の3方向から考えると、利用者の困りごとを察することができます。
そしてBPSDの悪化を防ぐ対応につながります。
よくある場面で見る“対応の違い”

認知症ケアの現場では、同じ利用者・同じ状況でも、対応が職員によって違う時があります。
そして、その“ちょっとした違い”が、利用者の安心にも、不安の高まりにもなるのです。
例えば、落ち着かない利用者にへの対応として
①そっと距離を保ちながら声をかける場合
②急いで近づいてしまう場合
①は安心感を与え、②は驚かせてしまうことが想像できますよね。
このように、普段の対応の差は、利用者の行動の変化に直結するといえます。
だからこそ、よくある場面を通して、どんな違いが利用者の安心につながるか、
どんな対応が不安を強めてしまうのかを見ていくことが大切です。
ここでは、現場でよく起こるシーンを取り上げていきます。
“日頃の対応の違いがどのように結果を変えるのか” をわかりやすく整理しましょう。
ケース1:トイレを探してウロウロしている
まずは、トイレを探してウロウロしている状況での対応をみましょう。
職員からは、歩き回っているようにしか見えない時があります。
特に忙しいときには、徘徊しているからおとなしくしててほしい。
このように考えがちです。
そして対応の方法を誤ってしまいます。
悪い例から見ていきましょう。
■ 悪い声掛けの対応
職員が急いで近づき、正面から声をかける。
「どうしたんですか?歩き回らないでください」
利用者は驚き、不安が強まり、拒否や怒りが出やすくなる。
● その後の展開
- 落ち着かず歩き回り続ける
- 職員の声かけを受け入れなくなる
- 不穏・拒否などBPSDが強まりやすい
■ 良い対応の声掛け
少し距離を保ちながら、視界に入る位置からゆっくり声をかける。
「何かお探しですか。ゆっくりで大丈夫ですよ」
利用者が「トイレ…」と答えたら、ペースを合わせて案内する。
● その後の展開
- 「わかってもらえた」と安心し、落ち着く
- トイレに行けて不快が解消
- BPSDにつながらず短時間で収まる
なぜ結果が変わるのか
- 距離の違い:急接近は恐怖を招く、適度な距離は安心を生む
- 声かけの違い:行動を止める言葉は不安を増やす、寄り添う言葉は理由を引き出す
- 観察の違い:「徘徊」と決めつけるか、「困りごと」を探るか
- 対応の違い:行動を止めるか、根本原因(トイレ)を解決するか
■ ケース2:夕方になると落ち着かない(夕暮れ症候群)

グループホームやデイサービスなどでよく聞く、夕方になると利用者が歩き回ったりする行動です。
「家に帰らなきゃ」
「夕飯の支度をしなきゃ」
利用者はこのように理由を答えます。
この利用者が発する理由に対して、最初にどのように対応するのか。
とても大切なポイントです。
悪い例と良い例を確認しましょう。
■ 悪い対応
夕方になり、利用者がそわそわ歩き回ったり「帰らなきゃ」と言い出したとき、
職員が事実をそのまま伝えてしまう。
職員:「ここがあなたの家ですよ。帰る必要はありません」
利用者は納得できず、不安がさらに強まる。
● その後の展開
- 「帰らなきゃ」という訴えが強くなる
- 職員の説明を受け入れず、怒りや拒否が出やすい
- 不穏・混乱が増し、BPSDが悪化しやすい
■ 良い対応
利用者の不安を受け止めながら、落ち着ける環境に誘導する。
職員:「家のことが気になるんですね。心配ですよね」
職員:「少し休んでから考えましょう。こちらで座りましょうね」
照明を少し明るくしたり、静かな場所に移動するなど環境調整も行う。
● その後の展開
- 「わかってもらえた」と感じ、安心して落ち着く
- 席に座ったり、別の活動に移行しやすくなる
- 不安が和らぎ、短時間で症状が収まる
■ なぜ結果が変わるのか
- 夕方は不安が高まりやすい時間帯で、否定されると混乱が増す
- 事実の説明より“気持ちの受け止め”が効果的
- 環境刺激(暗さ・騒がしさ)が影響しやすく、調整が必要
- 良い対応は「不安の原因」を減らし、悪い対応は「不安そのもの」を強めてしまう
初期対応の違い:まとめ
同じ行動でも、 対応の違いによって結果が変わってきます。
安心して落ち着くのか、不安が高まりBPSDが悪化するのかーー。
対応の違いで、結果が真逆になることも珍しくありません。
目線として持つべきなのは
“行動を止める”のではなく、“困りごとを理解して解決する”
これが認知症対応の本質であり、BPSD予防の最も効果的なアプローチです。
認知症対応をきちんと行っても暴言や暴力は受ける

どれだけ丁寧に利用者へ対応をしても、うまくいかない時があります。
認知症の方の不安が強く、こちらの声が届かないこともあれば、
思いがけず暴言や暴力につながってしまう場面もあります。
でも、それはあなたのせいではありません。
認知症ケアは、相手の状態や環境によって結果が大きく変わる世界です。
完璧な対応をしても、うまくいかない日があるのは当然のことです。
上手くいかなくても、「どうすれば自分を守りながら、利用者の不安を少しでも軽くできるか」
このような視点を持ちましょう。
あなたが安全であることは、ケアの質を守るためにも欠かせません。
そこで、別の記事では 「認知症利用者の暴力や暴言から職員を守る」 というテーマで、
職員自身の安全を守るための考え方や、対応のポイントをまとめています。
職員にも尊厳があります。
職員の尊厳を守ることをテーマにした記事です。
ぜひも参考にしてみてください。
まとめ:日々の対応の質が、認知症ケアの質を決める
認知症ケアは、利用者の安心をつくるための大切な土台です。
距離の取り方、声かけ、共感、原因の仮説立て──どれも特別な技術ではありません。
「相手の不安に気づき、丁寧に寄り添う」というシンプルな姿勢から始まります。
そして、どれだけ基本を押さえていても、うまくいかない利用者もいます。
利用者の状態、環境、その日の体調や気分……そしてその方本来の性格が影響されるのです。
つまり、さまざまな要因が重なってしまうのです。
そして時には暴言や拒否、混乱につながってしまうことになります。
でも、それはあなたのせいではありません。
認知症ケアは、正解がひとつではない世界です。
大切なのは、ひとつの対応に固執せずに、
「なぜこの行動が起きたのか」
「どうすれば安心につながるのか」
をその都度、柔らかく考え直していく姿勢です。
認知症対応の基本を思い出しながら、利用者の“困りごと”に寄り添いましょう。
そして何より、ケアをするあなた自身が安心して働けることを願っています。


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